「失敗」と「想像力」から学ぶ、J.K.ローリングの卒業スピーチ

卒業シーズンに読みたい、J.K.ローリングの名スピーチ

春は卒業と新たなスタートの季節。

この時期になると毎年話題になるのが、スティーブ・ジョブズやJ.K.ローリングといった、世界的なクリエイターたちの卒業スピーチです。

今回はその中でも、2008年にハーバード大学の卒業式で行われたJ.K.ローリングのスピーチを取り上げます。

彼女は『ハリー・ポッター』シリーズの作者として知られていますが、出版前はシングルマザーで貧困生活を送り、どん底からの成功を経験した人物でもあります。

このスピーチでは、そんな彼女の実体験をもとに、「失敗から学ぶこと」「想像力のもつ力」という、ビジネスにも通じる大切なメッセージが語られました。

華やかな成功の裏にある“リアルな話”だからこそ、多くの人の心を動かし、今もなお語り継がれているのです。

公式動画(YouTube/Harvard Magazine公式)

スピーチ全文(英語/Harvard Magazine)

https://www.harvardmagazine.com/2008/06/the-fringe-benefits-failure-the-importance-imagination

スピーチの背景・要点

  • スピーチの舞台
    2008年、ハーバード大学の卒業式。
  • スピーカー
    『ハリー・ポッター』の作者、J.K.ローリング。成功の裏に、貧困やうつなど壮絶な経験がありました。
  • スピーチのタイトル
    “The Fringe Benefits of Failure, and the Importance of Imagination”
    → 日本語訳では「失敗の効用、そして想像力の大切さ」。2つのテーマに沿って、人生と創造力の価値を語ります。
  • メッセージの方向性
    夢や成功ではなく、あえて「失敗」と「想像力」に光を当てた構成が印象的です。
  • ビジネスに通じるポイント
    自己肯定、創造力、共感力。どれも現代のビジネスパーソンに必要な視点ばかりです。

スピーチの主なテーマ①:失敗の効用

J.K.ローリングはスピーチの中で、自らの過去を包み隠さず語っています。

大学卒業後、作家として生きたいという夢を持ちながらも現実は厳しく、離婚、育児、貧困、うつ病という「人生のどん底」を経験しました。

彼女はこう言います。「私は自分が想像していたどんな失敗よりもひどい状況に陥った」。

しかし、それでも「まだ生きていた」と。

彼女にとって、すべてを失ったことはむしろ「不要なものが削ぎ落とされた」ことを意味しました。

地位や評価といった外側の期待から解き放たれ、自分の本当にやりたいこと——物語を書くこと——に集中できたと語ります。

この話は、ビジネスの世界にも通じるものがあります。

「失敗しないように」「評価されるように」と、他人の期待ばかりを意識していると、自分の軸がどこにあるのか見失ってしまいがちです。

しかし、思い切り失敗し、すべてを失ったあとにこそ見えてくる“本音”や“本質”があります。

ローリングは、こうした経験を通じて「失敗は、避けられないものではなく、むしろ恩恵である」と言い切ります。

“Failure meant a stripping away of the inessential.”
(失敗は、不必要なものを取り払ってくれる)

私たちもまた、キャリアの中で避けられない失敗や挫折に直面します。

そのとき、「終わった」と思うのではなく、「ここからが本当のスタート」だと捉える視点こそ、強さの源になるのではないでしょうか。

スピーチの主なテーマ②:想像力の力

J.K.ローリングはスピーチの後半で、「想像力」というテーマに深く切り込んでいます。

ここで言う“想像力”とは、ファンタジーの世界を創造する力というよりも、他者の立場に立ち、他人の苦しみを理解する力のことを意味しています。

彼女は、大学卒業後に働いていたアムネスティ・インターナショナル(国際人権団体)での経験を振り返ります。

迫害を受けた人々の証言を読み、手紙を翻訳し、時には涙が止まらなくなるほど衝撃を受けたこともあったといいます。

そのなかで感じたのは、人間には「自分が経験していないことでも、理解しようとする力」がある、ということでした。

想像力は、現実を逃避するための手段ではなく、他人の痛みを想像し、行動を起こすための原動力になる。

それはクリエイターに限らず、ビジネスの世界においても非常に重要な力です。

たとえば、ユーザーの課題を理解する、部下の立場を思いやる、取引先の真意をくみ取る。

どれも「データ」や「スキル」だけでは完結しない、“共感力”が求められる場面です。

ローリングが語る想像力とは、そうした人と人の間に橋をかける力なのです。

“Imagination is not only the uniquely human capacity to envision that which is not, and therefore the foundation of all invention and innovation… it is the power that enables us to empathize with humans whose experiences we have never shared.”
(想像力とは、人間にだけ与えられた、まだ存在しないものを思い描く力であり、すべての発明と革新の土台。そして私たちが、経験したことのない他人の苦しみに共感する力でもある)

現代のビジネスでは、AIやデータでは代替できない力が問われています。

その1つがまさに、「想像力=共感する力」なのではないでしょうか。

まとめ:逆境の中で、人は強く優しくなれる

J.K.ローリングのスピーチは、きらびやかな成功談ではありません。

むしろ、誰もが避けたい「失敗」や「苦しみ」の中にこそ、本当の自分に出会えるという、静かで力強いメッセージが込められています。

彼女は、どん底の経験があったからこそ、「何を恐れ、何を選ぶべきか」が明確になったと語ります。

そして、自分が経験していない他者の苦しみにも、想像力を通じて寄り添えるようになったと。

このスピーチから学べることは、ビジネスの世界にも多く存在します。

  • 成果が出ない時期をどう受け止めるか
  • 周囲とどう向き合い、どう信頼を築くか
  • 何のためにこの仕事をしているのか――その軸を見つめ直す

これらはすべて、「失敗」と「想像力」という2つのキーワードを通して深く考えるべき問いです。

ローリングの言葉を借りるなら、「人生で避けられない困難の中で、自分が何者かを知る」ことが、何よりも価値のある経験なのかもしれません。

卒業シーズンにあらためて、自分自身にも問いかけてみましょう。

今、自分のしていることは、心から望んだものだろうか?
そして、その先にいる誰かを、想像できているだろうか?